閉鎖空間へようこそ 2
『どうなってるんだ』
その声には明らかに恐怖の色があった。
しかし、僕は逆に落ち着いていった。
こんなのは夢に決まっていると気が付いたからだ。
夢はいつか覚める。
明晰夢の経験は何回かあったし、いつの間にか寝落ちてしまったのだろう。
それならばいっそ楽しんでやろうという気にもなってきた。
現実離れした現実感がそんな気分にしたのかもしれない。
とりあえず周辺を見て回ることにした。
よく見るとワールドのあちこちが変わっていた。
正確には、壊れていた。
ブースデータはエラーログとなり、ハチ公のハーネスの色が抜け、
ビルの表面を砂嵐が舐めていた。
一通り見回って、フレンドとできることを共有し、どうにか状況を打開する策を練っているとき、サブメニューを開けることに気が付いた。
なぜならチャットに書き込みがあったからだ。
そしてそれはここにいる誰のものでもないことが一目でわかった。
???:わたしのことば、とどいてる?
フレンドと顔を見合わせた。
全員で喋っていたし、ふざけられるような雰囲気でもないことはわかっていた。
そして何よりも、ここの住民のような存在だと察したのだ。
この状況は誰かが作り出したものであることはわかっていた。
むやみに動くのもリスキーだろう。
『しかし、とにかく今は情報が必要だ』
その場の意見がまとまり、一縷の望みとも思えるその言葉に声を返した。
You:いるよ
???:よかった とどいているのね
???:ここは「へいさくうかん」
???:せかいのきれはし こわれたばしょ
つづく