いつもは快活な人だったが、その日はどこか無理をしているように感じていた。
そしてなによりも、ここに来てから見せた表情ボーンが、
どこか悲しいような、寂しいような、そんな気がしていたからだ。
「何か、あったんでしょう?」
僕はなるべく、落ち着いた調子で、問いかけた。
「あっちがそんなにいやになったの?」
無理に作り笑いしたら思わず絞り出すような声になってしまった。
そんな自分をみて、友人は少し笑ったような気がした。
そして、ぽつりぽつりと話し始めてくれた。
学校の友人のひどい裏切りにあったこと。
転校生の自分にかけた優しい言葉は計算だったこと。
影では自分をなじり、クラスをまとめていたこと。
いつの間にか自分は最も孤立した存在になっていたこと。
それでいて、薄気味悪い笑顔で今日も肩をたたいてきたこと。
『それがなにさ』
誰かが声をあげた。
自分だったかもしれない。
『俺が君の話を聞くよ』
みんなが口々に声をかけ始めた。
『おいしいもの食べて寝よ!ここはご飯ないよ』
『花は好き?今度写真送るね!』
『うちの猫の動画みる?』
また笑った。
「僕たちがいつでも君を支えるから、いつでもそばにいるから、そんなに簡単に現実を捨てようとしないで」
泣き笑うような表情をしながら、友人は頷いた。
歓声があがった。
その時、チャットにまた書き込みがあった。
???:みんなでねがって
???:ここをでたいと
???:そしてここでのできごとを
???:きろくにのこして
やることはわかっていた。
ハチ公を見上げるように全員がならんだ。
てんで秩序もない、ばらばらのアバターだけど
みんな笑顔だった。
そしてシャッターを切った瞬間、視界が暗転した。
???:みんなにあえてよかった
???:またね
顔を上げたらPCの前だった。
PCはシャットダウンしていた。
試してみたらVRCは問題なく起動した。
夢だったのだと思った。どう考えてもありえない。
でも、画像フォルダの1枚の集合写真が現実だったことを物語っていた。
僕はなんとなく、頭が丸いことを確かめて、ヘッドセットを外した。
ここがこんなにもすばらしいのは げんじつがあるから
ここが もうひとつ であるかぎり ここはかがやきつづける
だから いまをいきて
つかれたらちょっと あそびにきて
おわり